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相信農場を訪ねて

菊池義弘

嶺南地方のなだらかな山すそを縫うようにして、小さな路線バスが走る。山奥へ、山奥へ、さらに山奥へ…。街が遠ざかって行くにつれて定着村がだんだんと近づいて来る。39年前、17名のハンセン氏病快復者がこの地に入植し、山野を切り拓いたという。「相信農場」と書かれた赤茶けた道標の下に降り立ち、過ぎし歳月と村の人たちの労苦を思い起こしてみる。
久しぶりの相信農場。坂道を一歩一歩登って行くごとに、キャンプの思い出がよみがえってくる。美しい自然は一年前と少しも変わらない。・・・しかし、村は変わっていた。何よりも、教会前の広場に建てられた新しい養鶏場と豚舎に目が引かれる。村はうまく行っているのだろうか。
その後、私たちが村長さんの家に泊まり込み、じっくりと聞いた話には、表面的な発展からは見えてこなかった村のかかえている難しい問題があった。
農村の朝は早い。鶏の鳴き声、朝もやの中を子供たちがもう起き出して働いている。登校前の卵集めが農家の子の日課なのだ。
食事をする私たちにアジュマ(おばさん)が声をかける。
「農村はいいところでしょう。」
けれど、その言葉に村長さんが、ぽつりと言い捨てた。
「でも、ソウルの方がいいよ…。」
「ソウルでは、じっとしゃがんでいても、おもしろい事ばかりだろう。ここでは、おもしろい事も何もない…。」
努力の分だけお金がもうかるソウル。懸命に働けば、何らかの利益が得られるべきなのに、ここでは生産にかける費用と努力の量が合わないという。しかも、働き手の中心は40代、50代だ。農村がかかえる問題と矛盾はこの村を例外としない。
例えば、子豚を育てる場合、150kgになると市場へ売る。それまでに農民は一頭あたり8万ウォンほどの飼料を食べさせ、汗水流して育てる。しかし、取り引きされる価格は600gあたり900ウォンが現在の相場なのだ。これでは、とても食べて行けない。最近の物価上昇は、特に飼料費の高騰を招いたという。
「畜産物の輸入が自由化されれば、我々が豚を飼育する必要もなくなる。政府は農村だけ切り捨てるのではなく、ソウルも農村も一緒に生きて行けるような政治をしてほしい。」
村長はつぶやくようにそう吐いた。
「常緑樹(サンロクス)会という援助団体がソウルにある。会員になった一般の市民が毎月一人1000ウォンずつ出し合って基金を支え、定着村から依頼のある時に無利子で貸し付けるのだ。教会前の新しい鶏舎の建設費用2千万ウォンも、ここから借りてまかなったという。村長は今、その借金の返済に追われている。昨年の夏のワークキャンプで行なった道路舗装も、実は400万ウォンかかっている。
翌日、私たちは聞慶郡庁へ、村長と共に出向き、今年の夏のワークキャンプのための資材の手配を要請した。
郡庁:「去年もしただろう。毎年毎年、要請が多すぎるなぁ。」
村長:「毎年、少しずつ少しずつ舗装をやりたいので…。」
郡庁:「セメントの手配は、今しても2ヶ月以上かかるぞ。」
村長は、後で見積書を作成し、再申請し直せば「たぶん大丈夫だろう」と答えてくれた。しかし…。
店村(チョムチョン)からソウルへと戻る道、ハナフェ(韓国外語大のサークル)の金鎮宇が、ふとこう言った。
「来年からは他の村を探そう。村にこのまま金を出してもらうのは悪い気がしてならない。」

[菊池義弘、1992年6月]

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