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らい予防法

法律第二百十四号 (昭和二十八年八月十五日施行)

第一章 総則(この法律の目的)

第一条 この法律は、らいを予防するとともに、らい患者の医療を行い、あわせてその福祉を図り、もって公共の福祉増進を図ることを目的とする。
(国及び地方公共団体の義務)
第二条 国及び地方公共団体は、つねに、らいの予防及びらい患者(以下「患者」という)の医療につとめ、患者の福祉を図るとともに、らいに関する正しい知識の普及を図らなければならない。
(差別的取り扱いの禁止)
第三条 何人も、患者又は患者と親族関係にある物に対して、そのゆえをもって不当な差別的取扱をしてはならない。

第二章 予防(医師の届出等)

第四条 医師は、診察の結果受診者が患者(患者の疑いのある者を含む。この条においては以下同じ)であると診断し、または死亡の診断若しくは死体の検案をした場合において死亡者が患者であったことを知ったときは厚生省令の定めるところにより、患者、その保護者(親権を行う者又は後見人をいう。以下同じ)若しくは患者と同居している者又は死体のある場所若しくはあった場所を管理する者若しくはその代理をする者に、消毒その他の予防法を指示し、且つ、七日以内に、厚生省令で定める事項を患者の所在地(居住地がないか、又は明らかでないときは、現在地。以下同じ)又は死体のある場所の都道府県知事に届け出なければならない。
(2) 医師は、患者が治癒し、又は死亡したときは、すみやかに、その旨をその者の居住地の都道府県知事に届け出なければならない。
(指示医の診察)
第五条 都道府県知事は、必要があると認めるときは、その指定する医師をして、患者又は患者と疑うに足りる相当な理由がある者を診察させることができる。
(2) 前項の医師の指定は、たいの診療に関し、三年以上の経験を有する者のうちから、その同意を得て行うものとする。
(3) 第一項の医師は、同項の職務の執行に関しては、法令により公務に従事する職員とみなす。
(国立療養所への入所)
第六条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者について、らい予防上必要があると認めるときは、当該患者又は又はその保護者に対し、国が設置するらい療養所(以下「国立療養所」という)に入所し、又は入所させるように勧奨することができる。
(2) 都道府県知事は、前項の勧奨を受けたものがその勧奨に応じないときは、患者又はその保護者に対し期限を定めて、国立療養所に入所し、又は入所させることを命ずることができる。
(3)都道府県知事は、前項の命令を受けたものがその命令に従わないとき、又は公衆衛生上らい療養所に入所させることが必要であると認める患者について第二項の手続きをとるいとまがないときは、その患者を国立療養所に入所させることができる。
(4) 第一項の勧奨は、前条に規定する医師が当該患者を診察した結果、その者がらいを伝染させるおそれがあると診断した場合でなければ、行うことができない。
(従業禁止)
第七条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者に対して、その者がらい療養所に入所するまでの間、接客業その他公衆にらいを伝染させるおそれがある業務であって、厚生省令で定めるものに従事することを禁止することができる。
(2) 前条第四項の規定は、前項の従業禁止の処分について準用する。
(汚染場所の消毒)
第八条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者又はその死体があった場所を管理する者又はその代理をする者に対して、消毒材料を交付してその場所を消毒すべきことを命ずることができる。
(2) 都道府県知事は、前項の命令を受けたものがその命令に従わないときは、当該職員にその場所を消毒させることができる。
(物件の消毒廃棄等)
第九条 都道府県知事は、らい予防上必要があると認めるときは、らいを伝染させるおそれがある患者が使用し、又は接触した物件について、消毒材料を交付して消毒を命じ、又は消毒によりがたい場合に廃棄を命ずることができる。
(2) 都道府県知事は、前項の消毒又は廃棄の命令を受けたものが命令に従わないとき、当該職員に、その物件を消毒し、又は廃棄させることができる。
(3) 都道府県は、前二項の規定による廃棄によって通常生ずべき損失を補償しなければならない。
(4) 前項の規定による補償を受けようとする者は、厚生省令の定める手続きに従い、都道府県知事に、これを請求しなければならない。
(5) 都道府県知事は、前項の規定による請求を受けたときは、補償すべき金額を決定し、当該請求者にこれを通知しなければならない。
(6) 前項の決定に不服がある者は、その通知を受けた日から六十日以内に、裁判所に訴をもってその金額の増額を請求することができる。
(質問及び調査)
第十条 都道府県知事は、前二条の規定を実施するため必要があるときは、当該職員をして、患者若しくはその死体がある場所若しくはあった場所又は患者が使用し、若しくは接触した者がある場所に立ち入り、患者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。
(2) 前項の職員は、その身分を示す証票を携帯し、且つ、関係者の請求があるときは、これを呈示しなければならない。
(3) 第一項の権限は、犯罪調査のために認められたものと解釈してはならない。

第三章 国立療養所(国立療養所)

第十一条 国は、らい療養所を設置し、患者に対し、必要な療養を行う。
(福利増進)
第十二条 国は、国立療養所に入所している患者(以下「入所患者」という)の教養を高め、その福利を増進するようにつとめるものとする。
(厚生指導)
第十三条 国は、必要があると認めるときは、入所者に対して、その社会的更生に資するために必要な知識及び技能を与えるための措置を講ずることができる。
(入所患者の教育)
第十四条 国立療養所の長(以下「所長」という)は、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第七十五条第二項の規定により、小学校又は中学校が、入所患者のため、教員を派遣して教育を行う場合には、政令の定めるところにより、入所患者がその教育を受けるために必要な措置を講じなければならない。
(2) 所長は学校教育法第七十五条第二項の規定により、高等学校が、入所患者のため、教員を派遣して教育を行う場合には、政令の定めるところにより、入所患者がその教育を受けるために、必要な措置を講ずることができる。
(外出の制限)
第十五条 入所患者は、左の各号に掲げる場合を除いては、国立療養所から外出してはならない。
一、親族の危篤、死亡、り災その他特別の事情がある場合であって、所長が、らい予防上重大な支障を来たすおそれがないと認めたて許可したとき。
二、法令により、国立療養所外に出頭を要する場合であって、所長がらい予防上重大な支障を来たすおそれがないと認めたとき。
(2) 所長は前第一号の許可をする場合には、外出の期間を定めなければならない。
(3) 所長は、第一項各号に掲げる場合には、入所患者の外出につき、らい予防上必要な措置を講じ、且つ、当該患者から求められたときは、厚生省令で定める証明書を交付しなければならない。
(秩序の維持)
第十六条 入所患者は、療養に専念し、所内の紀律に従わなければならない。
(2) 所長は、入所患者が紀律に違反した場合において、所内の秩序を維持するために必要があると認めるときは、当該患者に対して、左の各号に掲げる処分を行うことができる。
一、戒告を与えること。
二、三十日をこえない期間を定めて、謹慎させること。
(3) 前項第二号の処分を受けた者は、その処分の期間中、所長が指定した室で静居しなければならない。
(4) 第二項第二号の処分は、同項第一号の処分によっては、効果がないと認める場合に限って行うものとする。
(5) 所長は、第二項第二号の処分を行う場合には、あらかじめ、当該患者に対して、弁明の機会を与えなければならない。
(親権の行使等)
第十七条 所長は、未成年の入所患者で親権を行う者又は後見人のないものに対し、親権を行うもの又は後見人があるに至るまでの間、親権を行う。
(2) 所長は、未成年の入所患者で親権を行う者又は後見人のあるものについても、監護、教育等その者の福祉のために必要な措置をとることができる。
(物件の移動の制限)
第十八条 入所患者が国立療養所の区域内において使用し、又は接触した物件は、消毒を経た後でなければ、当該国立療養所の区域外に出してはならない。

第四章 福祉(一時救護)

第十九条 都道府県知事は、居住地を有しない患者その他救護を必要とする患者及びその同伴者に対して、当該患者が国立療養所に入所するまでの間、必要な救護を行わなければならない。
(一時救護所)
第二十条 都道府県は、前条の措置をとるために必要があると認めるときは、一時救護所を設置することができる。
(親族の援護)
第二十一条 都道府県知事は、入所患者をして、安んじて療養に専念させるため、その親族(婚姻の届出をしてないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ)のうち当該患者が入所しなかったならば、主としてその者の収入によって生計を維持し、又はその者と生計をともにしていると認められる者で、当該都道府県の区域内に居住地(居住地がないか、又はあきらかでないときは、現在地)を有するものが、生計困難のため援護を要する状態にあると認めるときは、これらの者に対し、この法律の定めるところにより、援護護を行うことができる。但し、これらの者が他の法律(生活保護法「昭和二十五年法律第百四十四号」を除く)に定める扶助を受けることができる場合においては、その受けることができる扶助限度においては、その法律の定めるところによる。
(2) 援護は、金銭を給付することによって行うものとする。但し、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他の援護の目的を達成するために、必要があるときは、現物を給付することによって行うことができる。
(3) 援護のための金品は、援護を受ける者又はその者が属する世帯の世帯主若しくはこれに準ずる者に交付するものとする。
(4) 援護の種類、範囲、程度その他援護に関し必要な事項は、政令で定める。
(児童の福祉)
第二十二条 国は、入所患者が扶養しなければならない児童で、らいにかかっていないものに対して、必要があると認めるときは、国立療養所に附置する施設において教育、養護その他の福祉の措置を講ずることができる。
(2) 第十七条第一項の規定は、前項の施設に入所中の児童について準用する。

第五章 費用(都道府県の支弁)

第二十三条 都道府県は、左の各号に掲げる費用を支弁しなければならない。
一、第五条第一項の規定による診察に要する費用
二、第六条の規定による措置に要する費用並びに同条第一項又は第二項の規定による勧奨又は命令による患者の入所に要する費用及びその入所に当り当該都道府県の職員が附き添った場合における附添に要する費用
三、第八条及び第九条の規定による消毒及び廃棄に要する費用
四、第九条第三項の規定による損失の補償に要する費用
五、第十九条の規定による一時救護に要する費用
六、第二十条に規定する一時救護所の設置及び運営に要する費用
七、第二十一条の規定による援護に要する費用
(費用の徴収)
第二十三条の二 都道府県知事は、第二十一条の規定による援護を行う場合において、その援護を受けた者に対して、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定により扶養の義務を覆行しなければならない者(入所患者を除く)があるときは、その義務の範囲内において、その者からその援護の実施に要した費用の全部又は一部を徴収することができる。
(2) 生活保護法第七十七条第二項及び第三項の規定は、前項の場合に準用する。
(国庫の負担)
第二十四条 国庫は、政令の定めるところにより、都道府県が支弁する費用のうち、第二十三条第一号から第六号までに掲げる費用については、その二分の一、同条第七号に掲げる費用については、その全部を負担する。

第六章 雑則(訴願)

第二十五条 この法律又はこの法律に基いて発する命令の規定により所長又は都道府県知事がした処分(第九条第五項の規定による補償金額の決定処分を除く)に不服がある者は厚生大臣に訴願することができる。
(2) 厚生大臣は、前項の訴願がらいを伝染させるおそれがある患者であるとの診断に基く処分に対してその診断をを受けた者が提起した者であって、且つ、その不服の理由がその診断の結果を争うものであるときは、その訴願の裁決前、第五条第二項の規定に準じて厚生大臣が指定する二人以上の医師をして、その者を診断させなければならない。その場合において、訴願人は、自己の指定する医師を、自己の費用により、その診察に立ち会わせることができる。
(3) 第五条第三項の規定は、前項の医師について準用する。
(公課及び差押の禁止)
第二十五条の二 第二十一条の規定による援護として、金品の支給を受けた者は、当該金品を標準として租税その他の公課を課せられることがない。
(2) 第二十一条の規定による援護として支給される金品は、すでに支給を受けたものであるとないとにかかわらず差押えることができない。
(罰則)
第二十六条 医師、保健婦、看護婦若しくは准看護婦又はこれらの職にあった者が、正当の理由がなく、その業務上知得した左の各号に掲げる他人の秘密を漏らしたときは、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
一、患者若しくはその親族であること、又はあったこと。
二、患者であった者の親族であること、又はあったこと。
(2) 前項各号に掲げる他人の秘密を業務上知得した者が、正当な理由がなく、その秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
第二十七条 左の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。
一、第四条第一項の規定による届出を怠った者
二、第五条第一項の規定による医師の診断を拒み、妨げ、又は忌避した者
三、第九条第一項の規定による物件の授与の制限又は禁止の処分に従わなかった者
四、第八条第二項又は第九条第二項の規定による当該職員の執行を拒み、妨げ、又は忌避した者
五、第十条第一項の規定による当該職員の調査を拒み、妨げ、又は忌避した者
六、第十条第一項の規定による当該職員の質問対して虚偽の答弁をした者
七、第十八条の規定に違反した者
第二十八条 左の各号の一に該当する者は、拘留又は科料に処する。
一、第十五条第一項の規定に違反して国立療養所から外出した者
二、第十五条第一項第一号の規定により国立療養所から外出して、正当な理由がなく許可の期間内に帰所しなかった者
三、第十五条第一項第二号の規定により国立療養所から外出して、正当な理由がなく、通常帰所すべき時間内に帰所しなかった者

らい予防法改正に関する付帯決議

一、患者の家族の生活保護については、生活保護法とは別建の国の負担による援護制度を定め、昭和二十九年度から実施すること。
二、国立のらいに関する研究所を設置することについても、同様、昭和二十九年度から着手すること。
三、患者並びにその親族に関する秘密の確保に努めると共に、入所患者の自由権を保護し、文化生活のための福祉施設を整備すること。
四、外出の制限、秩序の維持に関する規定については、適正慎重を期すること。
五、強制診断、強制入所の処置については、人権尊重の建前にもとづきその運用に万全の留意をなすこと。
六、入所患者に対する処置については、慰安金、作業慰労金、教養娯楽費、賄費等につき、今後その増額を考慮すること。
七、対処者に対する更生福祉制度を確立し、更生資金支給の途を講ずること。
八、病名変更については十分検討すること。
九、職員の充実及びその待遇改善につき一段の努力をすること。

以上の事項につき、近き将来本法の改正を期すると共に、本法施行に当たっては、その趣旨の徹底、啓蒙宣伝につき十分努力することを要望する。

一九五三年八月六日 参議院厚生委員会

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