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金新芽長老「その麗しい帰郷」


月刊「キリスト教思想」2003年3月号

月刊「キリスト教思想」2003年3月号から
忠光農園・忠光教会 金新芽長老 「その麗しい帰郷」

人生とは、とうとうと流れる川のようである。誰にとっても、弱々しく簡単に放棄してしまったり、そこから退いてしまったりは決してできないような、大きな魅力あふれる、まるで夕焼けのようなきらめきが人生には込められている。しばらく見守っていれば、川は、いつしか私の手をつかみ、水のさらにその深みへと引っ張って行く。時に挫折と失意をもたらす人生であるが、それでも人生とは、とうとうと流れる川のように、ただ無心に流れて行くものである。

彼の話をする前に、まずキーワードを幾つか掲げなければならない。そのキーワードとは、この話の主題になることもあるし、あるいは話を引っ張って行く方向性でもある。ともかく、海のようにたくさんの話をキーワード一つなく紐解いて行くことは私自身にはできないし、また彼の人生も、その80歳という数字だけでは、決して推し量ることができない深さと広さを持っているためである。

別離

彼の名前は「金新芽長老」である。長老という、その職位まで一緒に書かなければ彼の完成した名前にならないように、彼の周辺の人たちは皆、彼のことを「金新芽長老」と呼んでいる。既に触れたように、彼は今年80歳になった。80歳を迎えた今、彼は大変特別な感慨を包まれている。帰郷。長い間、離れていた家についに帰って来たような思い、そして、以前のように力強く歩き出し、生き生きとした、まるで青々とした新芽のように、彼の心は、まさにここから育ち始めたもののようだった。

しかし、今にして思えば、たとえこのように帰って来るためであったのだとしても、別離ということは胸が痛むことであり、決して振り返りたくない出来事であった。何よりも、それはあらゆる心が通った人々から離れなければならないということであり、それは死のように寂しい断絶でもあった。彼にとって、常に「別離」という言葉は、このように断絶であり、死を意味した。常に心の中のある部分を占め、それが時として、だんだんと満ちあふれて来る。いくら否定していても「自分はよそ者なんだ」と言って一人慰めなければならなかった。そのような恐ろしい言葉として「別離」は常にあった。

1945年、解放(終戦)のその年、彼は22歳で家を離れ、大邱市の宣教師が運営する病院に入らなければならなかった。家族を愛するがために、家族の傍らにいてはならなかったのだ。ハンセン氏病は、そのような心の痛む逆説を求められた。病気自体がもたらした痛みよりも人々との構造的な拒絶が作り出した徹底した「集団的ないたぶり」がそれ以上に怖い病気だった。

あらゆる働きを止めるまで、彼は貧しいけれども温かな家庭で育った。彼の父母は8人の男女を育て、洋服をしたてながら下宿屋を営んだ。その困難な時代に中学校を彼と4人の息子たちが通うことができたことも父母の誠実な生き方のおかげだったと思っている。学校に通ってから、彼の病気に対する疑いがもたげたようだった。

植民地教育は子弟間の距離まで広げてしまった。 言い知れぬ憂鬱さと温かい父母の関心、その間で彼は信仰生活にのめりこんで行き、トルストイとガンジー、シュバイツァーを読むことに没頭した。お祈りをしても常に「イエス様のように生きるようにしてください」と言っていた。たぶん彼はイエス様の生を通して自分に向かって近づいて来る、もう一つの十字架を迎えているのかもしれなかった。

病気が体に現れて、人々から断絶されて行ったその頃であった。鮮やかに覚えている問いが一つあった。

「私はどうしてこんな病気になったんだ?いったい、誰の、どんな罪のせいで?」

父母に対する問いかけであった。あるいは自分自身に対する問いかけでもあった。彼の問いかけは神に向かってその答えを求めていた。既に神は、彼にとって絶対的な存在であり、彼の果てのない心底の痛みに対して、神は答えなければならなかった。「この者や、彼の父母が罪を犯したのではなく、彼を通して神がなさろうとしていることが現わされるためである。(ヨハネ、9:3)」誰の罪でもなかった。神の栄光のために、神がなさりたいことをするためにそうされたのだということがその答えだった。痛み出していたその心底に、暖かな太陽の光が降り注いでいた。そして、かすかではあるが暖かな希望が預言のように心にあふれて行くように感じた。

「私にくださった神からのみ心があるようだ。」

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[原典:月刊「キリスト教思想」2003年3月号、ハン・ジョンホ/記、菊池義弘/訳]

忠光農園・忠光教会 金新芽長老「その麗しい帰郷」
金新芽長老「その麗しい帰郷」(1) 別離
金新芽長老「その麗しい帰郷」(2) 発見
金新芽長老「その麗しい帰郷」(3) 定着
金新芽長老「その麗しい帰郷」(4) 家族


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